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岡山地方裁判所 平成7年(ワ)1120号 判決

原告

X1

ほか二名

被告

Y1

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告X1に対し、金一億二四七八万八六二八円及びこれに対する平成五年一一月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告X2及び原告X3に対し、各金一九五万〇〇〇〇円及びこれに対する前同日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告X1と被告ら間においては、これを五分し、その二を原告X1の負担とし、その余を被告らの連帯負担とし、原告X2及び原告X3と被告ら間においては、これを五分し、その三を原告X2及び原告X3の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。

四  この判決の一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

本件は、原告X1(以下「原告X1」という。)、原告X2(以下「原告X2」という。)及び原告X3(以下「原告X3」という。)が、現地時間の一九九三年一一月二七日(以下、日時の表記は、西暦で表示した場合は現地時間であり、西暦以外で表示した場合は日本時間である。)アメリカ合衆国サウスダコタ州内の高速道路上で発生した交通事故(以下「本件事故」という。)によって原告X1が傷害を受けたことにより損害を受けたとして、事故車両を運転していた被告Y1(以下「被告Y1」という。)及びその所有者で事故車両に同乗していた被告Y2(以下「被告Y2」という。)に対し、サウスダコタ州法に定める不法行為責任のあることを原因として、各自、原告X1に対しては損害賠償金の一部である二億〇〇〇〇万〇〇〇〇円及びこれに対する不法行為の日である平成五年一一月二七日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを、原告X2及び原告X3に対しては各損害賠償金の一部である五〇〇万〇〇〇〇円及びこれに対する前同日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いをそれぞれ求める請求である。

第二事案の概要

一  争いのない事実及び証拠・弁論の全趣旨により容易に認められる事実(甲第二号証の一及び二、第四号証、第九ないし第一一号証、乙第四号証、第八号証の一ないし五、丙第一号証、第三号証)

1  当事者

(一) 原告X1(昭和四五年○月○日出生)は、一九九三年一一月二七日当時、日本の高校卒業後、アメリカ合衆国サウスダコタ州にあるa大学に入学するため同大学附属英語学校に通っていた者であり、原告X2(昭和一四年○月○日出生)及び原告X3(昭和二〇年○月○日出生)は、原告X1の父母である。

(二) 被告Y1(昭和四七年○月○日出生)及び被告Y2(昭和四九年○月○日出生)は、いずれも前記a大学の学生であり、被告Y1は、事故車両を運転していた者であり、被告Y2は、事故車両を所有していた者である。

2  事故の発生状況

(一) 原告X1、被告Y1及び被告Y2に原告X1と同じa大学附属英語学校に通っていた訴外A(昭和四九年○月○日出生)(以下「訴外A」という。)及び訴外B(昭和四八年○月○日出生)(以下「訴外B」という。)を加えた五名は、感謝祭休暇を利用してサウスダコタ州内のヒューロン市からオマハ市まで走行距離約五〇〇キロメートルに及ぶ自動車による往復旅行(以下「本件自動車旅行」という。)を計画した。右の参加者五名中、原告X1のみ自動車運転免許を保有していないため、ホテル代及びガソリン代は五名で均等に負担したが、自動車運転は、他の四名が往路及び復路のいずれも順次交替で当たった。前記五名は、一九九三年一一月二五日昼頃ヒューロン市を出発して同日夕刻オマハ市に到着し、同市に二日間宿泊し、日本食を味わい、買い物をするなどして感謝祭休暇を楽しんだ後、同月二七日昼帰途に就き、訴外B、訴外A、被告Y1の順序で運転し、ヒューロン市に向かっていたが、被告Y1において事故車両を運転していた同日午後四時四〇分頃同州ミネハラ郡内の高速道路Ⅰ―九〇上にさしかかった際、五名の乗用した事故車両がスリップのために操縦不能となり、横転しながら路外に飛び出して高速道路外に落下した。原告X1は、事故車両が高速道路外に落下した際、車外に投げ出され、その衝撃により第五頸椎破裂骨折及び頸髄損傷の傷害を受けた。

(二) 被告Y1が事故車両を運転し、被告Y2が助手席に、原告X1、訴外A及び訴外Bが座席を取り除いた車両後部に乗車していたところ、本件事故が発生し、運転者の被告Y1及び同乗者の原告X1が順次車外に投げ出され、前記のとおり、原告X1は、重傷を負ったが、他の四名は、軽傷にとどまった。事故車両は、被告Y2所有の中古車両であり、シートベルトの装着してある後部座席をもつジー・エム社製一九八八年式バン型乗用車であったが、車両後部に三名が同乗するため、本件自動車旅行開始前に後部座席を取り外し、事故当時は原告X1、訴外A及び訴外Bが車両床面に敷物を起き、臥床あるいは着座していた。事故当時、現地は、寒冷期のため、高速道路の路面が凍結しており、スリップ事故を起こしやすい状態にあった。

3  原告X1の治療経過及び後遺障害の程度

(一) 治療経過

原告X1は、事故後直ちに現地のマッケンナン病院に収容され、一九九三年一一月二七日から同年一二月六日までの九日間治療を受けた後、アメリカから日本まで特別にチャーターされた航空機で搬送され、岡山労災病院で平成五年一二月七日から平成六年一二月三一日までの三八九日間入院治療を受け、その後も引き続き同病院で通院治療を受けている。

(二) 後遺障害の程度

原告X1は、平成六年七月三一日症状固定の診断を受けたが、後遺障害等級第一級に該当する両上下肢機能全廃、直腸膀胱等の後遺障害が残り、労働能力を全部喪失した。

4  損害の填補

被告Y1の父Cは、同被告に代わって、原告X1に対し、次の金員を支払った。

(一) アメリカにおける治療費 二七三万一六七〇円

(二) アメリカから日本への搬送費用 五〇〇万〇〇〇〇円

(三) 計 七七三万一六七〇円

二  争点

1  被告Y1の不法行為責任の有無

(一) 原告らの主張

サウスダコタ州法典には不法行為責任に関する一般的条項は存在しないが、判例(ドーエン対ラム事件、デナート対ギャレットフィードカンパニー事件)によって、運転者として通常の注意を怠った場合、損害賠償責任が肯定されているところ、被告Y1は、既に薄暗くなっていた上、本件事故のあった高速道路の路面が当時所々凍結していたのであるから、法定制限速度毎時六五マイル(時速約一〇四キロメートル)を遵守するとともに、路面の状況に応じて速度を調節して走行すべき注意義務があるのに、右の制限速度だけでなく、路面の凍結状況についてもこれを認識していながら、毎時七〇マイル(時速約一一二キロメートル)で走行した結果、事故車両をスリップさせて制御不能の状態に陥れた過失により本件事故を惹起したものであるから、サウスダコタ州法に定める不法行為責任がある。仮に、被告Y1が毎時五〇ないし五五マイル(時速約八〇ないし八八キロメートル)で事故車両を運転していたとしても、事故現場の路面が凍結状況にあったことからすると安全に配慮した走行速度であるとはいえず、被告Y1に運転者として通常尽くすべき注意義務を怠った過失があることに変わりはなく、不法行為責任を免れない。

(二) 被告Y1の主張

本件事故は、事故車両のスリップによって発生したものであるが、急ブレーキを踏むといった被告Y1の運転操作の過誤によるものではない。被告Y1は、事故当時、高速道路における走行車両の流れに沿って毎時五〇ないし五五マイルの安全走行速度を維持して運転していたものであるから、過失はない。

2  被告Y2の不法行為責任の有無

(一) 原告らの主張

サウスダコタ州の判例では、普通法上、自動車の使用上の過失による事故の損害につき事故車両の所有者であるというだけの理由でその者に損害賠償責任を負わせることはできないとしながらも、運転者が所有者の代理人若しくは被用者として運転に従事していた場合、所有者が事故車両内に現在し、運転に一定の支配を有し、又は運転の資格のない若しくは不適切である者に運転を委ねた場合、及び、所有者と運転者が共同事業若しくはパートナーシップ活動に従事している場合にあっては、この限りでないとして、特段の事情のある場合は、事故車両の所有者がその許可を受けて事故車両を使用していた者の過失による事故の損害について損害賠償責任を負うとされ(一九九四年ストーヴァー対クリッチフィールド事件)、また、自動車を貸与した所有者が、運転者において適性を欠き、無謀又は不注意であることを知りながら、自動車の運転を委託した場合には自己の過失に基づきその者の過失による事故の損害について損害賠償責任を負うとされている(一九三六年ボック対セラーズ事件)。このように、所有者が、適格性のない又は不注意な運転者に対し、その事実を知りながら、事故車両の運転を委ねたため、事故が発生した場合は損害賠償の責任を負担するものとされているところ、被告Y2は、事故車両の所有者であったことに加え、事故当時、その助手席に同乗し、被告Y1において路面凍結にもかかわらず制限速度を超過する速度で運転していることを認識していたものであり、仮に制限速度超過ではなかったにせよ、路面凍結のため安全な走行速度であるとはいえない高速度で運転していることを認識していたものであり、被告Y1に対し右の走行速度につき注意し、安全な速度で走行するように指示する注意義務があるのに、これを怠った過失があるから、事故車両の所有者が損害賠償責任を負うべき特段の事情がある場合に当たるというべきである。また、同州の判例では、不注意により整備不良の状態にある自動車が事故を起こした場合には、事故車両の所有者も損害賠償責任を問われるとされているところ、事故車両の右後輪タイヤのトレッドパターンのみ他の前後輪タイヤのトレッドパターンと相違するだけでなく、左前後車輪タイヤの溝が右前後車輪タイヤのそれよりも摩耗し、左右における前後車輪タイヤの摩耗状況が相違する状況にあり、高速運転の場合、走行性能及び操縦安定性に影響を与える度合いが大きく、危険であったのに、被告Y2は、この点につき認識しながら、被告Y1に事故車両の運転を委ねたものであり、所有者として当該車両を使用するに当たり機能的欠陥状態を招き、事故を起こすことのないように整備点検を行う注意義務があるのに、これを怠った過失があるというべきである。さらに、被告Y2は、仮にタイヤの溝が十分であってトレッドパターンの相違も本件事故の発生とは無関係であったとしても、本件自動車旅行の行われた一一月下旬になると事故現場付近は気温が低下し、雪も降っているためスリップを起こしやすいことを予め認識し得たにもかかわらず、冬季走行用タイヤ(スノータイヤ・スタッドレスタイヤ)を装着せず、事故車両を漫然と長距離にわたる自動車旅行の用具に供した結果本件事故が発生したものであり、自動車の所有者として自己及び他人に対して危険を生じさせないように自動車を良好な状態に保つべく整備点検する義務を怠った過失があることが明らかであるから、この点からも、損害賠償責任を免れない。

(二) 被告Y2の主張

被告Y2と被告Y1とは、格別親しい友人関係にあるわけでなく、本件自動車旅行も被告Y1の企画した計画に共通の友人を介しての誘いに応じて参加したものであり、被告Y2と被告Y1の間に支配被支配の関係がないため、使用者責任を認める余地はない。しかも、旅行という目的の範囲では共同性があっても、運転行為自体は単独で行うものであるから、特段の事情がない限り、共同不法行為性は認められないというべきである。被告Y2は、事故当時、助手席で眠っていたものであるが、その前に被告Y1に対しては速度を出し過ぎないように注意を与えており、被告Y1が自動車運転免許の保有者である以上、被告Y2としては、十分な注意義務を尽くしたというべきである。事故後被告Y1が速度を出し過ぎであった事実を認めていることから明らかなとおり、本件事故はもっぱら被告Y1の過失によって発生したものであり、被告Y2に損害賠償責任はない。

また、事故車両のタイヤは、冬季使用を禁止されていた種類のものではないことに加え、その溝も摩耗してはいたものの、タイヤ摩耗限度表示が出るほど摩耗していたわけではなく、本件事故の発生との因果関係は明らかでないというべきである。タイヤのトレッドパターンに相違があるとする点も同様であって、事故車両に装着されていたタイヤが凍結した高速道路における走行に適した状態になかった点の立証は尽くされていないというべきである。

3  原告X1の損害の有無及び額

(一) 入院治療費・付添看護費 一〇三三万三八一四円

(1) マッケンナン病院分 二七三万一六七〇円

(2) 岡山労災病院分

治療費 三一七万三五五四円

付添看護費 四一八万九七八〇円

計 七三六万三三三四円

(3) アネスシェオロジー・アソシエーション・インク及びダコタ・サージカル・リミテッド分 二三万八八一〇円

(二) 入院雑費 七九万六〇〇〇円

マッケンナン病院に九日間及び岡山労災病院に三八九日間合計三九八日間入院したことに伴う入院一日当たり二〇〇〇円の割合による金額

(三) 医師等に対する謝礼金 二〇万〇〇〇〇円

(四) 搬送費用 八二九万五二三〇円

原告X1をアメリカから日本に搬送するため民間航空会社のチャーター便を利用したことによるもの。

(五) 渡米費用 六〇万二七二〇円

原告X3と姉Dが事故直後原告X1の安否を確認し、原告X1を見舞うため日本からアメリカに赴くために要した費用

(六) 通信費 一五万四九九三円

原告X1の負傷状況等を確認するため岡山とアメリカ合衆国間で通話したことによる国際電話料金

(七) 建物建築費用ほか 二二七七万六一三三円

(1) 建物新築費用等 一六六四万八三〇〇円

(2) 介護設備費用等 三一二万七八三三円

(3) 自動車購入費用 三〇〇万〇〇〇〇円

(八) 将来の介護費用 八八〇九万一三九九円

原告X1が前記後遺障害のため将来にわたり常時付添介護を要することによる一日当たりの介護費用一万三〇〇〇円に三六五日を乗じて得た年額四七四万五〇〇〇円に症状固定時の年齢二三歳における平均余命五四歳に対応するライプニッツ係数一八・五六五一を乗じることにより中間利息を控除して得たもの。

(九) 逸失利益 一億一七五三万一一三八円

原告X1は、症状固定時二三歳であったが、前記後遺障害のため労働能力を全部喪失したため、二三歳から六七歳まで四四年間労働することによって得べかりし利益につき、平成五年度賃金センサスの男子労働者・産業計・企業規模・大学卒計・全年齢計年額六六五万四二〇〇円に就労可能年数四四年に対応するライプニッツ係数一七・六六二七を乗じることにより中間利息を控除して得たもの。

(一〇) 慰藉料 二九〇〇万〇〇〇〇円

(1) 入通院慰藉料 五〇〇万〇〇〇〇円

原告X1が平成五年一一月二七日から平成六年一二月三一日まで入院し、その後も引き続き通院を余儀なくされたことによって被った精神的苦痛を慰藉するためのもの。

(2) 後遺障害慰謝料 二四〇〇万〇〇〇〇円

原告X1が後遺障害等級第一級の障害が残ったことによる著しい精神的苦痛を慰藉するためのもの。

(一一) 弁護士費用 九五〇万〇〇〇〇円

(一二) 合計 二億八七二八万一四二七円

4  原告X2及び原告X3の各損害の有無及び額

(一) 慰藉料 各五〇〇万〇〇〇〇円

(1) 原告らの主張

サウスダコタ州では、従前から子が不法行為の被害者となることで父母が被害者たる子からサービスを受けられなくなったこと、及び、父母が被害者である子の世話をするために要する医療費その他の損害について賠償を求めることのできる権利を認めており、本件事故により損害を被った原告X1の父母である原告X2及び原告X3も、被告らに対し、固有の損害賠償請求権を有するというべきところ、原告X2及び原告X3が原告X1の傷害によって受けた著しい精神的苦痛を慰藉するための金員の額としては、各五〇〇万〇〇〇〇円が相当である。

仮にサウスダコタ州法及び判例の下で子が交通事故等によって重傷を負った場合にその父母に固有の慰謝料請求権が認められないというのであれば、右の事態は我が国における公序に反するというべきであるから、日本法によって原告X2及び原告X3の慰謝料請求権が認められるべきである。

(2) 被告Y1の主張

サウスダコタ州においては、一九九六年州最高裁判所において子供の負傷により家族共同体が受けた損害につき両親に損害賠償を請求する権利がない旨判断した(ノウレス対連邦政府事件・北西地区判例集第二巻五四四巻一八三頁)。原告らは、原告X1が原告X2及び原告X3の子であることをもって原告X2及び原告X3にも損害賠償請求権がある旨主張するが、原告らが引用する意見書(メモランダム)に記載されているとおり、右の損害賠償請求権は不法行為を被った子が未成年(なおサウスダコタ州法では年齢一八歳未満が未成年である。)である場合に親に認められる権利であって、本件のように被害者が成年に達している場合には適用がなく、主張自体失当である。

(二) 弁護士費用 各二五万〇〇〇〇円

(三) 合計 各五二五万〇〇〇〇円

5  被告らの責任の限定の可否

(一) 被告Y1の主張

本件事故は、事故車両が、後部座席を撤去したことにより座席もシートベルトもないため、車両後部に乗車するならば安全性に欠ける状態にあっただけでなく、タイヤが摩耗していたため、凍結している高速道路を走行するには適していない状態にあったのに、被告Y2において原告X1を含む旅行参加者に対して事故車両を貸与したために発生したものであるから、もっぱら被告Y1の過失によって惹起されたものというべきではない。

しかも、サウスダコタ州においては、法において寄与過失の制度が、判例法によって危険引受の法理が認められている。しかるに、原告X1は、後部座席が撤去されたことにより座席もシートベルトもないため、人が車両後部に乗ることが危険であることを十分知りながら、あえて長時間にわたり右の改造車両に乗車して本件事故に遭ったものであるから(一九九〇年クッシャー対フェラー事件の判例では、シートベルトの着用を怠ったとき、損害拡大を防止する義務を怠るものであるとされている。)、事故の発生及びその損害の拡大を最小限に抑えるべき注意義務を怠った過失がある。また、原告X1は、事故現場だけでなく、ヒューロン市からオマハ市までの間の道路がすべて凍結しており、しかも、その間六〇〇ないし七〇〇キロメートルの距離を五、六時間で走行するためには相当高速度で走行する必要があることから、スリップ事故の発生する危険が高いことを十分に知りながら、他の四名が運転する事故車両に同乗したものであり、その運転方法に対して何ら異議を述べていないから、事故発生の危険につき、これを容認し、引き受けたものである。特に、原告X1は、本件事故前に訴外Eらが被告Y2から事故車両を借り受けて運転した際にスリップ事故を起こしたことを知らされていながら、本件自動車旅行に参加し、本件事故に遭遇したものである。

したがって、原告X1は、本件事故の発生及び結果の拡大に寄与した過失があるとともに、事故による危険を容認し、引き受けたものであるといえるから、被告Y1の責任は否定されるべきであり、仮にこれを肯定するとしても、最大五〇パーセントの限度に限定されるべきである。

なお、原告らは、現行のサウスダコタ州民法典(三二―三八―四)によるとシートベルト不着用につき寄与過失ないし危険引受の抗弁を主張しえないとするが、右の規定は、一九九四年に制定されたものであって、本件事故当時はシートベルトの不着用につき寄与過失ないし危険引受の抗弁として主張することができたものであるから、被告Y1の損害賠償責任は否定されるべきである。

(二) 原告らの主張

原告X1は、自動車運転免許を保有しておらず、このため、被告Y1の主張する危険な運転行為を容認していたということはできないし、原告X1が座席のない車両後部に同乗していたからといって、その事実をもって原告X1に過失があるということはできない。

また、サウスダコタ州では、好意同乗による責任限定の抗弁は廃止されており、被告Y1の主張する寄与過失ないし危険引受の抗弁の主張のうち、原告X1が乗車していた車両後部が荷台に当たるということはできず、仮に荷台に当たるといえるとしても、サウスダコタ州法で人が荷台に乗車してはならない旨の定めの存在は立証されていないため、原告X1に過失があるということはできない。原告X1は、車両後部に乗車するならばシートベルトを着用できないことも、事故当時の路面が凍結する気象状況の下で高速道路をかなりの高速度で運転していたことも、いずれも認識していたとはいえ、自動車運転免許を保有しておらず、運転行為の分担者でないため、被告らの運転状況等につき原告X1が黙認したことのみをもって原告X1に損害の発生及び拡大につき過失があるということはできない。特に、シートベルト不着用に関しては、サウスダコタ州法によると寄与過失ないし危険引受の抗弁として主張することは許されていない。仮に被告Y1が主張するように右の規定が本件事故の場合適用がないとしても、被告Y1が根拠とする判例はシートベルト着用義務の課された運転者につきその着用が容易であったにもかかわらず着用していなかった場合についての判例(一九九〇年クッシャー対フェラー事件)であるから、運転者でなく、座席もシートベルトもなかった本件とはその状況を全く異にしており、原告X1に損害の発生及び拡大につき過失があるとはいえない。また、サウスダコタ州法では、好意同乗による責任減殺規定(ゲスト・スタテュート)は本件事故前の一九七八年をもって廃止されているのであるから、好意同乗による責任減殺の主張は失当であるし、そもそも、原告X1は、事故車両同乗に当たってガソリン代金を負担しているのであるから、ゲスト・スタテュートに定めるゲストに該当しない。

第三争点に対する判断

一  国際裁判管轄及び準拠法について

争点に対する判断に先立ち、国際裁判管轄及び適用法規について検討する。

国際裁判管轄の基準に関し未だ確立された国際法規範は存在しないけれども、被告の訴訟防御権保障の観点からするならば、被告住所地を管轄とする国に第一次的国際裁判管轄権を認めることが国際私法上の条理に適合するものと解されるところ、被告らは、本件訴訟提起時にいずれもアメリカ合衆国に常居所を有していた者であるが、被告らの異議を留めることのないまま、本案の答弁をしていることから、右の応訴によって日本国に第二次的国際裁判管轄権が生じるものと解するのが相当である。そして、日本国内における裁判管轄は、民事訴訟法に定める義務履行地の裁判籍の規定に従い、原告らの住所のある当裁判所に存在するものと認める。

そして、原告らの損害賠償請求の当否について判断するに当たり準拠すべき法令は、その請求がいずれも不法行為に基づく損害賠償請求権であるため、法例一一条一項の規定に従い、本件事故が発生した地であるアメリカ合衆国サウスダコタ州において適用される法令であると認める。

二  被告Y1の不法行為責任の有無について

1  本件事故の状況に関し、前記第二の一2の事実のほか、甲第二号証の一及び二、第三号証の一及び二、第四号証、第八号証の一及び二、第九ないし一一号証、乙第一号証の一ないし一三、第二ないし四号証、第五号証の一及び二、第六号証の一及び二、第八号証の一ないし五、丙第一ないし三号証、第五号証及び第九号証、被告Y1及び被告Y2の各本人尋問の結果(ただし、いずれも後記認定に反する部分を除く。)並びに弁論の全趣旨によれば、以下(一)及び(二)の事実が認められる。なお、争いのない事実を含む。

(一) 事故車両は、被告Y2が現地時間の一九九三年夏に現地で購入した乗車定員五名の中古自動車(排気量四〇〇〇シーシー)であり、ドアが運転席及び助手席側に各一個、後部に一個あるバン型乗用車である。後部座席は、着脱可能なものであるため、本件自動車旅行開始前に取り外されていた。事故現場は、二車線からなる平坦で直線の高速道路であり、最高制限速度は時速六五マイル(時速約一〇四キロメートル)と指定されていた。路面は、コンクリート舗装されており、数日前の積雪は路面から除雪されていた。しかし、事故当日は、曇り空の上、気温は零度以下であり、風があるため、道路の周辺にある積雪が風のため細かい雪片となって路面上を舞い、流れていく状況にあった。昼間でも五度程度しか上がらない気象のため、高速道路の路面は凍結し、窪みには雪氷が存在し、スリップしやすい状況にあった。

(二) 本件事故は、オマハ市からヒューロン市に向かう約五〇〇キロメートルに及ぶ本件自動車旅行の帰路に発生したものであり、事故当時、日没が迫っていたため、薄暗さが増すとともに、ヒューロン市周辺では、夜間に入ると零度以下に冷え込む土地柄のため、同市に近づくにつれ、路面の凍結状況は、次第に悪化しつつあった。そして、コンクリート舗装の路面は、散在的に雪氷が存在する状態から次第に路面全体に雪氷の存在する状況に変わっていった。しかし、被告Y1は、同年五月にアメリカに渡り、現地で運転免許を取得した者であり、路面が凍結した状態にある高速道路における自動車運転に十分習熟していなかったのに、夜までにヒューロン市に帰着する予定であったため、時速七〇マイル(時速約一一二キロメートル)の高速で走行していたことから、事故車両が走行中横振れした際に急ブレーキ操作をしたことにより事故車両を滑走させるに至った。このため、事故車両は、右に何回か横回転しながら路外に飛び出した後、高速道路下の雪面に転落し、その衝撃により車両左側及び天井部分が大きく凹損した。その際の衝撃により、助手席にいた被告Y2、車両後部にいた訴外B及び訴外Aが車内に残ったのに対し、運転席にいた被告Y1及び車両後部にいた原告X1が被告Y1、原告X1の順序で車外に投げ出され、原告X1以外の四名は、いずれも軽傷であったが、原告X1は、重傷を負った。

2  以上のとおり認められるところ、被告Y1は、当時の走行速度につき時速五〇ないし五五マイル(時速約八〇ないし八八キロメートル)又はそれより少し遅い速度で走行していた、フットブレーキは使用していないし、ハンドルも固定していたのに、車体が揺れ始めて操縦の自由を失い、五〇〇メートル以上そのまま滑走した後路外に飛び出し、高速道路下の雪面に転落した旨述べ、甲第二号証の一及び二によると、目撃者(後続車両の運転者F)も事故車両の走行速度については被告Y1と同趣旨を述べていることが認められるけれども、本件自動車旅行で運転を担当した他の三名がいずれも時速七五マイルから八〇マイルの速度(時速約一二〇ないし一二八キロメートル)で運転していたことは被告Y1において認めるところであり(被告Y2も同趣旨を述べる。)、被告Y1のみ前述の速度で走行したとみるべき事情が見当たらないだけでなく、旅行日程上、オマハ市からヒューロン市まで約五〇〇キロメートルに及ぶ長距離を数時間で走行する必要があったことからすると、右の平均走行速度は首肯することのできるものであるといってよいことに加え、被告Y1が事故の捜査のため収容先の病院を訪れた警察官に対して時速約七〇マイルで走行していた旨供述していることからすると、後に被告Y1側で依頼した現地の弁護士事務所における供述書で述べる時速五五ないし六〇マイル(時速約八八ないし九六キロメートル)であったとの供述、さらには被告Y1の本人尋問における時速五〇ないし五五マイル(時速約八〇ないし八八キロメートル)であったとの供述は、いずれも採用することができない。また、スリップ発生以前に何らブレーキ操作もハンドル操作も行われていないのに、操縦不能の状態のまま五〇〇メートル程度滑走した上、路外に飛び出し、高速道路下に転落したとする供述も、本件事故の発生状況として首肯し難い不自然さがあり、同様に採用することができない。

3  ところで、甲第八号証の一及び二、第五三号証の一及び二、乙第六号証の一によると、サウスダコタ州法典では、交通事故に代表される不法行為責任に関し、何人も自らの故意の行為により、又は通常の注意若しくは技能を欠いたがゆえに、他人の身体、財産又は権利に対して加えた侵害につき損害賠償責任を負う旨(二〇条九項一号)、また、その場合の損害賠償の方法に関し、他人の不法な作為又は不作為によって負傷をした者は、その過失ある者より金銭による損害賠償を受けることができる旨(二一条一項一号)定められていることが認められるところ、被告Y1は、事故当時、自動車運転免許を取得して三か月足らずであり、サウスダコタ州近辺の冬季における路面の凍結した高速道路での車両運転の経験が十分ではなかったのに、気温が零度以下という気象条件のため、路面が凍結している状態にあることを認識しながら、前記認定のとおり、制限最高速度を超える高速で走行しただけでなく(被告Y1の主張するように時速五〇ないし五五マイル(時速約八〇ないし八八キロメートル)であったとしても、凍結した路面である上、窪みには雪氷がある状態であったことからすると、右の走行速度が安全さを欠くものであったことに変わりはない。)、車体が横振れした際に雪氷もみられる凍結した路面上で急ブレーキ操作をした結果、操縦の自由を失うに至ったものであり、前記路面状況を無視して制限速度を超える高速で走行したことに加え、凍結した路面の状況下で不用意に急ブレーキ操作を行うという運転技能の未熟さに本件事故の原因があるというべきであるから、サウスダコタ州法に定める通常の注意を怠った結果、他人の身体等に侵害を加えたものに該当するものと認められ、右の行為は、我が国においても、自動車運転に当たり必要な注意義務を怠った過失があるといってよく、不法行為に該当することが明らかであるため、被告Y1は、本件事故によって発生した損害につき賠償責任を免れない。

三  被告Y2の不法責任行為の有無について

1  本件自動車旅行の計画・実行状況に関し、甲第四号証、第九号証、第五八号証、乙第一号証の一ないし一三、第三号証、第四号証、丙第三号証、第五号証、第八号証、第九号証の一及び二、被告Y1及び被告Y2の各尋問結果によると、以下の事実が認められる。なお、争いのない事実を含む。

(一) 本件事故は、感謝祭休暇を利用し、ヒューロン市からオマハ市までの間を往復する自動車旅行の帰路に発生したものであり、右の自動車旅行は、原告X1、被告Y1、被告Y2、訴外B及び訴外Aの五名によって計画されたものであるところ、当初は天候急変という問題があるため、運転経験の長い被告Y2と訴外Bが運転を担当することとなったが、他の者の希望もあって原告X1を除く自動車運転免許を有する四名が運転を交替で担当することになった。しかし、被告Y1の場合は、一九九三年五月に渡米してから現地で運転免許を取得した関係上、運転経験は三か月程度と極めて短く、特に冬季における高速道路の走行経験に乏しかった。これに対し、被告Y2は、アメリカで自動車運転免許を取得した者であるが、一年半の現地での運転経験を有していた。このため、被告Y2は、Y1に運転を委ねることに不安を抱き、前記のとおり、被告Y2及び訴外Bが運転を担当することを考えていたが、被告Y1らの希望があって、結局四名全員が交替で運転を担当することになった。

(二) ところで、E外二名は、原告X1らが本件自動車旅行に出掛ける直前に被告Y2から事故車両を借り受け、ヒューロン市からオマハ市に至る同じ高速道路でシューフォールズに向かったところ、その一〇マイル手前の地点で本件事故現場にも近い道路を時速五〇マイルで走行中にブリザードに遭い、積雪のためスリップして車体が回転し、あわや大事故になりかねない事態となり、レッカー車の援助を受けた。このため、同人らは、シューフォールズにその夜一泊し、翌日正午まで出発を延期した上、時速三〇マイルで運転して、ヒューロン市に帰着したが、この出来事は、翌二二日夜被告Y2に伝えられただけでなく、その際併せて悪天候に備え、スノータイヤに交換する必要のあることも被告Y2に伝えられた。そして、前記Eから今の時期は危険な気象状況にある旨の忠告を受けたことは、被告Y2によって旅行参加者全員に知らされたが、被告Y1からゆっくり行けばよいとの意見があり、他の者も右意見に同調したため、出発することに決まった。なお、事故車両のタイヤは、中古品であって、摩耗状況が進んでいたほか、四車輪のうち一車輪はトッレドパターンが他の車輪と相違していた。

(三) 本件自動車旅行の往路では、被告Y2、訴外B、被告Y1、訴外Aの順序で運転した。出発当日は、晴れであったが、数日前の降雪のため、ヒューロン市付近では路面に積雪のある状態であり、訴外Bの運転中、ミッセル付近で雪氷のためスリップを起こしたが、事故には至らなかった。その後、ミッセルで運転者は被告Y1に替わったが、このころ路面は乾燥した状態にあった。しかし、被告Y2は、被告Y1が運転免許を取得して日が浅いため、不安を抱き、道路状態が悪くなったならば、交替する旨の申出をしたが、無事オマハ市に到着した。これに対し、帰路では、出発当日、曇りであった上、シューフォールズから西進する途中、ミッセルに至る前に事故が発生したが、日没が迫り、現場付近では、気温は零度以下であり、風のため、道路の周辺にある積雪が細かい雪片となって路面上を舞い、流れていく状況になっていた。現地は、冬季に入ると、昼間でも五度程度しか上がらない悪気象条件にあるため、事故現場付近に至ると、高速道路の路面は凍結し、窪みには雪氷が存在し、スリップしやすい状況にあった。当時、被告Y1が事故車両を運転しており、被告Y2は、次に運転を担当するため、助手席にいた。被告Y2は、事故当時仮眠していたが、眠る以前に道路状況が前記のとおり風のため道路の周辺にある積雪が細かい雪片となって路面上を舞い、流れていく状況にあることを目撃していた。また、被告Y1が速度を出し過ぎるため、控えるように注意もしたが、その後三〇分くらい仮眠中に本件事故が発生した。

2  以上のとおり認められるところ、甲第五九及び第六〇号証の各一及び二、第六一号証、乙第二号証の一及び二並びに弁論の全趣旨によると、原告らの主張するように、サウスダコタ州の判例法上、一般に自動車の所有者であるというだけではその承諾を得て使用する運転者の過失による事故につき損害賠償を負わせることはできないとしながらも、所有者が運転者を自己の代理人若しくは使用人の立場で運転に従事させている場合、所有者が事故車両内に現在し、運転に対する一定の支配を有しているか、運転の資格のない者若しくは不適切である者に運転を委ねている場合、及び、所有者と運転者が共同事業若しくはパートナーシップ活動に従事している場合は、この限りでないとして、事故車両の所有者による損害賠償責任を肯定し(一九九四年ストーヴァー対クリッチフィールド事件・北西地区判例集第二巻五一〇号六八一頁)、また、所有者がその者において適性を欠き、又は無謀・不注意であることを知りながら、自動車を貸与した場合には、その者に自動車の運転を委託したという自己の過失に基づき運転者の過失によって発生した事故による損害につき損害賠償責任を肯定していることが認められるところ(一九三六年ボック対セラーズ事件・北西地区判例集第二巻二八五号四三七頁)、右の判例法は、自動車事故の被害者救済の見地から、所有者の資力に着目することにより、その有責性の存在を積極的要件としながらも、普通法上の過失概念につき拡張解釈を加えることによって、右の限度ではあるものの、我が国における自動車損害賠償保障法三条に定める運行供用者責任と同様の被害者救済を実現することを意図したものと解される。そうすると、被告Y2は、自動車旅行開始前には事故車両の運転を委ねることを不安に思い、その全行程を運転技能のある訴外Bとの二名で運転する意図であったのに、被告Y1らの希望を容れ、事故車両の運転を委ねるに至った経緯からも明らかなように、被告Y1の運転経験が三か月程度しかなく未熟であり、とりわけ、冬季における路面が凍結した厳しい気象条件下での高速道路での運転技能が十分でないことを知っていたところ、前記Eらから猛吹雪のためスリップ事故を経験した旨知らされていたシューフォールズを過ぎ、ミッセルに向かうに当たり、おりから夜間に向かう冷え込みのため路面が凍結し、道路の周辺にある積雪が風のため細かい雪片となって路面上を舞い、流れていく状況にあったのであるから、前記Eから悪天候の場合事故車両に装着したタイヤでは危険であるため、交換する必要がある旨告げられていたことでもあり、スリップ事故を起こさないように、自ら運転するか、そうでなければ、自らも路面の状況に十分に注意し、絶えず被告Y1に対し制限速度を遵守するのはもちろん、凍結した路面状況に応じて速度調整をし、かつ、雪氷の多いある箇所では急ブレーキ操作をしないよう、路面状況に応じた運転方法につき具体的な指示を与える注意義務を負担していたというべきである。ところが、被告Y2は、現地の気象条件からミッセルに向かい西進する行程で路面状況が悪化していくことを知りながら、前記認定のとおり、被告Y1に速度を出し過ぎないように注意したに止まり、助手席で仮眠していたため、本件事故が発生したものであって、前記判例に述べる、車両の所有者が十分な適性を欠き、不注意な運転をすることを知りながら、当該車両の運転を委ねたものであるといってよく、事故車両の所有者として、被告Y1の不注意な運転によって発生した事故による損害につき賠償責任を免れないものと解するのが相当である。そして、このように解しても、我が国における自動車運行供用者責任以上の法的責任を被告Y2に負わせるものではないというべきである。けだし、被告Y2は、自動車損害賠償保障法三条に定める自己のため自動車を運行の用に供する者であることが明らかであり、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと等の事由を主張立証するのでなければ、その運行によって他人の生命又は身体を害したことによる損害を賠償する責任を免れないところ、右に認定判断したとおり、被告Y2が事故車両の運行に関し注意を怠らなかったということはできないからである。

なお、原告らは、本件事故の原因として事故車両のタイヤの摩耗・トレッドマークの相違といった整備不良を主張するが、本件事故が車体の横振れを発端とする高速走行下での急ブレーキ操作に起因するものであることは、路面の状況及び走行速度等に照らし、これを肯定することができるけれども、右のブレーキ操作のきっかけとなった車体の横振れについては、高速走行に伴う風圧の増大や路面上の雪氷の存在がその原因として比較的容易に推認することができるが、タイヤの摩耗・トレッドマークの相違も右の原因の一つであったとまでは、事故現場の実況見分の結果が判明していないため、肯定するまでには至らないというべきである。

四  被告らの責任の減殺について

1  被告らは、前記二及び三で認定判断したところによれば、サウスダコタ州法によってそれぞれ不法行為責任を負うとともに、損害の填補を目的とする不法行為責任の特質に照らし、我が国における不法行為責任と同じく連帯して損害賠償すべき義務があるところ、先に第二の一2に摘示したとおり、本件自動車旅行は、a大学及び同大学付属英語学校に在学する日本人五名が感謝祭休暇を利用して計画したものであって、ホテル代及びガンリン代は五名で均等に負担したが、右の参加者五名中、原告X1のみ自動車運転免許を保有していないため、運転は往路及び復路のいずれも原告X1を除く四名で順次交替で当たったものであり、事故車両は、被告Y2所有のシートベルトの装着してある後部座席をもつジー・エム社製一九八八年式バン型乗用車であったが、本件自動車旅行のため特に後部座席を取り外し、参加者のうち三名が車両床面に敷物を起き、臥床あるいは着座していたものであり、事故が発生した当時、被告Y1が運転席に、被告Y2が助手席に、原告X1、訴外A及び訴外Bが座席を取り除いた車両後部に同乗していたところ、おりから気温が零度以下に下がる悪気象条件のため路面が凍結しているにもかかわらず、運転を担当していた被告Y1において制限速度を超える高速度で走行中、急ブレーキ操作をしたことから、事故車両の操縦不能の状態となり、高速道路外に転落した結果、被告Y1及び原告松田が車外に投げ出され、前記のとおり、原告X1が重傷を負ったものであり、他の四名の場合軽傷にとどまったものである。

右に述べる本件自動車旅行の計画内容及び事故の状況に照らすならば、原告X1は、これに参加した一員として、気温が零度以下に下がるため路面が凍結する時期に高速道路を利用して片道数百キロを往復走行する自動車旅行であることを十分に知りながら参加したものであり、とりわけ、走行中の快適さを得るため、事故車両がシートベルトの装着してある後部座席を取り外し、同乗者が車両床面に敷物を起き、臥床あるいは着座していたものであるから、高速道路における平均時速一〇〇キロメートルを超える高速走行であることからすると、万一事故が発生するならば、重大な事故に至ることを比較的容易に予見することができたものというべきである(なお、乙第一号証の六、原告X1、被告Y1及び被告Y2の各本人尋問によると、原告X1は、日本では、自動車運転免許を取得するため、自動車教習所に通っていたことが認められる。)。

2  ところで、甲第五二号証、第六一号証、第六二号証、乙第二号証の一及び二によると、サウスダコタ州法では、甲が乙の過失によって生じた身体又はその所有物における損害につき損害賠償請求をする場合、甲に寄与過失があるという事実は、甲の寄与過失が乙の過失と比較して軽微である限り、甲の損害賠償請求を妨げるものでないとした上で、甲の寄与過失の程度に応じて損害賠償額が軽減される旨規定しており(民法典二〇条九項二号)、他方判例法では危険引受の法理が肯定されているが(一九九二年ウェストオーバー対イーストリバー電力発電公社事件・北西地区判例集第二巻四八八〇号八九二頁)、右のとおり制定法において比較過失による損害賠償責任の軽減が肯定されていることが認められるので、原告X1の前記過失の内容からすると、被告らの損害賠償責任を全面的に否定する寄与過失及び危険引受の法理を適用することは相当でなく、右の比較過失の規定に従い、被告らの損害賠償責任を軽減するのが相当であり、このように解することが我が国における不法行為法における過失相殺の法理にも適合するものと認められる。そして、事故当時原告X1がシートベルトを装着して座席に乗用していたならば、たとえ車体が横回転して道路外に転落したとしても、原告X1が本件事故において受けた傷害のごとき重大な傷害を受けることはなかったものと容易に推認することができるところ(現に被告Y1も車外に投げ出されてはいるが、軽傷にとどまっている。)、本件自動車旅行が参加者五名全員の共同企画に係るものであって、原告X1も、参加者の一人として、冬季の悪気象条件の下でヒューロン・オマハ間における約五〇〇キロメートルに及ぶ高速度道路を利用した高速走行による自動車旅行であり、その間不測の気象条件悪化があった場合、運転を担当する参加者の中に経験年数からみて運転技能の点で十分であるとはいい難い者が含まれているため、右のように正規の座席装置を取り除いた状態での乗用が相当に危険度の高いものであることにつき十分に認識し、又は認識しえたものであるといった事情を総合するならば、右の過失相殺における損害の公平な分担という見地からして、被告らの損害賠償責任は損害額の七割にとどめるのが相当である。

五  原告らの損害の有無及び金額について

1  甲第八号証の一及び二、第五三号証の一及び二によると、サウスダコタ州においても、前記のとおり、損害賠償の方法は金銭賠償によるものとされ、具体的な損害額の決定に当たっては、我が国におけると同様に、治療費、介護費、休業損害、逸失利益、慰藉料等につき当該事件における特殊な事実及び状況の下で合理的に損害額を算定するものとされていることが認められるので、原告X1が本件事故によって受けた損害から検討する。

(一) 入院治療費・付添婦費用

(1) 入院治療費

甲第五号証、第一〇号証、第一四号証、第六八号証、原告X2の本人尋問の結果(第一回)によると、原告X1が第五頸椎破裂骨折及び頸髄損傷の傷害を受け、現地のマッケンナン病院に収容され、九日間治療を受けたことにより同病院に治療費として二七三万一六七〇円を支払い、また、アネスシェオロジー・アソシエーション・インク及びダコタ・サージカル・リミテッドに対し二三万八八一〇円を支払ったこと、その後、アメリカから日本に搬送され、直ちに岡山労災病院に入院し、平成五年一二月七日から平成六年一二月三一日まで入院し、その間頸椎後方固定・骨移植術施行等の治療を受けたが、その治療費として三一七万三五五四円を支払ったことが認められ、右の各治療費計六一四万四〇三四円につき、本件事故と相当因果関係にある損害であると認める。

(2) 付添婦費用

甲第一五号証の一ないし四三、第一六号証の一ないし四五、原告X2の本人尋問の結果(第一回)によると、原告X1の岡山労災病院入院中、付添婦を雇用したことにより計四一八万九七八〇円を要したことが認められ、原告X1の症状からすると、病院の看護以外に付添婦による付添看護を必要としたものということができるから、右の付添婦費用も、本件事故と相当因果関係にある損害であると認める。

(3) 計 一〇三三万三八一四円

(二) 入院雑費

マッケンナン病院に九日間及び岡山労災病院に三八九日間合計三九八日間入院したことに伴う入院雑費は、一日当たり一〇〇〇円の割合による金額三九万八〇〇〇円の限度で本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

(三) 医師等に対する謝礼金

原告X2の尋問結果(第一回)によると、原告X2は、謝礼としてアメリカ人医師に一〇万ドル以上を支払い、岡山労災病院の医師に一〇〇万円程度を支払った旨述べるが、右の本人尋問の結果以外に謝礼の事実を認めるに足りる証拠がないだけでなく、謝礼の具体的経緯も明らかでないため、右の謝礼金は、本件事故と相当因果関係にある損害であると認めることはできない。

(四) 搬送費用

甲第一〇号証、第一九号証、原告X2の本人尋問の結果(第一、二回)によると、原告X2は、アメリカの現地からの電話連絡により原告X1が交通事故で第五頸椎破裂骨折及び頸髄損傷の傷害を受けた旨知らされ、原告X2自身外科医であり、その傷害の程度が極めて重いものであることを知って原告X1を日本に搬送して治療を受けさせることとしたが、原告X1の症状が民間航空機での搬送に耐えられないとの現地病院の主治医の判断に従い、事故後九日経過した時点で特別に仕立てたチャーター便を使用して医師及び看護婦同伴で帰国させ、その搬送費用として、八二九万五二三〇円を要したことが認められるところ、右の特別チャーター便による搬送のため民間航空機による搬送に比して特別の費用を要したことが明らかであるが、原告X1の症状の安定を待って帰国させるとしても、前記のとおりアメリカにおける医療費が九日間で二七三万一六七〇円を要していることから推認されるように、極めて高額であることなどからすると、原告X1の症状を考慮して、右の時点で帰国の措置を執ったことが相当でないとまではいい難く、右の搬送費用全額につき本件事故と相当因果関係のある損害であると認める。

(五) 渡米費用

甲第一一号証、第一八号証の一及び二、原告X2の本人尋問の結果(第一回)によると、前記のとおりアメリカの現地から原告X1が交通事故に遭い、重傷を負った旨の電話連絡を受け、母の原告X3と姉のDが原告X1の安否を確認するとともに、原告X1を見舞うために、平成五年一一月三〇日日本からアメリカまで航空機で赴いたことにより、右の二名分の航空運賃として六〇万二七二〇円を要したことが認められるが、本件事故の発生した場所が遠隔地である海外であり、事故の詳細も明らかでない時点での渡米であることからすると、右の渡米費用は、原告X3の航空運賃分三〇万一三六〇円の限度で本件事故と相当因果関係のある損害であると認める。

(六) 通信費

甲第一〇号証、第一七号証、第三三号証、原告X2の本人尋問の結果(第一回)によると、原告X2は、原告X1が交通事故に遭い、重傷を負った旨の連絡を受け、収容先のマッケンナン病院の主治医と同時通訳付き国際電話によって連絡をとり、傷害の状況を確認するとともに今後の治療方針につき照会・協議したことにより右の電話料金として計一五万四九九三円を支払ったことが認められるところ、右の通信費は、原告X1の傷害の内容等に照らし、本件事故と相当因果関係のある損害であると認める。

(七) 建物建築費用ほか

(1) 建物建築費用等

甲第二〇号証の一及び二、第二一号証、第二二号証、第二三号証の一及び二、第二四号証、第四四号証の一及び二、第四八号証の一ないし二四、第六六号証、第六七号証、原告X2の本人尋問の結果(第二回)によると、原告X2は、原告X1のため、自宅敷地内に専用住居を増築し、その建築工事のため建築主体工事分一二六〇万〇〇〇〇円、スロープ新設工事分一〇〇万〇〇〇〇円、車庫前車寄せ屋根工事分八〇万〇〇〇〇円計一四四〇万〇〇〇〇円を負担し、及び、汚水排水設備等の追加工事三〇万〇〇〇〇円、庭移植改造工事一〇四万六三〇〇円、カーテン購入費四一万二〇〇〇円、電気製品購入費二〇万五六〇〇円を負担したほか、原告らの自宅北側道路の舖装工事のため五八万四四〇〇円を負担したことが認められるが、既設住宅の改造費用としても必要であると認められるスロープ新設工事分一〇〇万〇〇〇〇円を除くその余の費用については、その内容・規模等に照らし、本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。

この点に関し、原告X2は、その本人尋問において、既設住宅を身障者用に改造することができないため、専用住居を増築し、生活上必要な電気製品を備え付けたものであると述べるけれども、右の本人尋問の結果によっても、原告X1の住生活における必要最小限の利便を確保し、その介護をするために、既設住居に改造を加えるにとどまらず、一五〇〇万〇〇〇〇円を超える高額の専用住居を増築することが必要不可欠である根拠は明らかでないというべきである。また、原告らの自宅北側道路の舗装工事費用も、原告X1の後遺障害の程度からして、舗装工事まで行う必要があるとは到底認め難いから、本件事故と相当因果関係のある損害であると認めることはできない。

(2) 介護設備費用等

甲第二七号証、第二八号証の一ないし五、第二九号証、第三〇号証の一及び二、第三一号証、第三二号証、原告X2の本人尋問の結果(第一、二回)によると、原告X2は、原告X1が常時付添介護を要する状態であるため、〈1〉専用住宅内に天井走行リフトを取り付けるとともに、ホームメイド、電動ベッド、シャワー用ストレッチャー、エアーマット、防水シーツ、リハビーバス、ケリーパット、ブックアーム、ベッドパットを購入して備え付けたことにより二八四万〇〇六三円を要したこと、〈2〉ジェイクッション等を購入し、その費用として一一万四三三〇円を要したこと、〈3〉車椅子を購入し、その費用として一七万三四四〇円を要したことが認められるが、右の各費用計三一二万七八三三円は本件事故と相当因果関係のある損害であると認める。

(3) 自動車購入費用

甲第三六号証、第三七号証、第四七号証の一ないし五、原告X2の本人尋問の結果(第一回)によると、原告X2は、原告X1の外出時における移動のために特殊装備を施した自動車を購入したことが認められるが、右の外出の機会が専用自動車を必要とするほど頻繁にあるとは認め難いから、右の自動車購入費用が本件事故と相当因果関係にある損害であると認めることはできない。

(4) 計 四一二万七八三三円

(八) 将来の介護費用

原告X1は、その後遺障害の程度からして、終生介護を要する状態にあることが明らかであり、右の介護費用は、原告X1が岡山労災病院を退院した日の翌日である平成七年一月一日以降その生存中必要であるところ、甲第五〇号証の一ないし三、第五一号証一ないし三、原告X2の本人尋問の結果(第一回)によると、原告X1の介護には雇用された家政婦が当たっており、その費用として一日当たり一万〇〇〇〇円(基本給七三〇〇円)以上の金額が支払われていることが認められるが、右の介護態勢が将来にわたって維持されるとは到底認め難く、将来近親者において介護に当たる場合のあることも十分予測しうるところであることからすると、右の介護費用は、控え目にみて家政婦の基本給に相当する一日当たり七三〇〇円、年額二六六万四五〇〇円の限度で本件事故と相当因果関係のある損害であると認める。そこで、右の年額二六六万四五〇〇円に平成七年簡易生命表で認められる前同日現在の年齢二四歳における平均余命年数五三年に対応するライプニッツ係数一七・六一二七六四六一(ただし、五四年のライプニッツ係数一八・五六五一四五五六から一年のライプニッツ係数〇・九五二三八〇九五を控除して得たもの。)を乗じることにより中間利息を控除して事故時における現価を算定すると、四六九二万九二一一円となることが計算上明らかである。

(九) 逸失利益

原告X1は、事故当時、高校卒業後a大学付属英語学校に在学していたが、本件事故によって受けた傷害の後遺障害のため終生にわたり労働能力を全部喪失したものであるところ、本件全証拠によるも、原告X1が翌年九月の新学期にa大学に進学し、同大学を卒業することが確実であったとまでは認め難く、控え目にみて同大学進学予定時期であった平成六年九月時点で二三歳九か月であるので、二四歳から六七歳までの四四年にわたり平成六年度賃金センサスの男子労働者産業計・企業規模計・高卒計・全年齢計年額五二四万三四〇〇円に相当する金額の得べかりし利益を喪失したものと認めるのが相当である。そこで、右の年額五二四万三四〇〇円に就労可能年数四四年に対応するライプニッツ係数一六・八二一六八八八七(ただし、四五年のライプニッツ係数一七・七七四〇六九八二から一年のライプニッツ係数〇・九五二三八〇九五を控除して得たもの。)を乗じることにより中間利息を控除して事故時における現価を算定すると、八八二〇万二八四三円となることが計算上明らかである。

(一〇) 慰藉料

前記第二の一3に記載したとおり、原告X1は、事故後直ちに現地のマッケンナン病院に収容され、現地時間の一九九三年一一月二七日から同年一二月六日までの九日間同病院で治療を受けた後、アメリカから日本まで航空機で搬送され、岡山労災病院で平成五年一二月七日から平成六年一二月三一日までの三八九日間入院治療を受け、その後も引き続き同病院で通院治療を受けているが、後遺障害等級第一級の障害が残り、終生労働することが不可能となったものであり、事故当時、a大学進学のため附属英語学校に在学していた二二歳一一か月の男子であって、本件事故によって人生の希望のほとんどを失うに至ったといっても過言ではないことからするならば、原告X1が本件事故によって受けた精神的苦痛には、死にも比肩すべき著しいものがあるというべきであるから、右の苦痛を慰藉するための金員の額は二二〇〇万〇〇〇〇円をもって相当であると認める。

(一一) 損害の合計額及び責任の減殺

以上、(一)ないし(一〇)の損害額の合計は一億八〇七四万三二八四円であるが、前記四に記載したとおり、被告らの損害賠償責任は、原告X1の受けた損害の七割を限度とすべきものであるから、弁護士費用を除く損害賠償額は一億二六五二万〇二九八円となることが計算上明らかである。

2  次に、原告X2及び原告X3の各損害について検討する。

(一) 慰藉料

原告X2及びX3が本件事故によって子である原告X1が後遺障害等級第一級という死にも比肩すべき重大な障害の残る傷害を受け、終生介護を要する状態となったことにより著しい精神的苦痛を受けたことは明らかであり、右の苦痛を慰藉するための金員の額は各二五〇万〇〇〇〇円をもって相当であると認める。

もっとも、甲第八号証の一及び二、乙第二号証の一及び二によると、サウスダコタ州法及び判例上子の負傷によって家族共同体が受けた損害につき父母に損害賠償を請求する権利がないとされていることが認められるけれども(一九九六年ノウレス対連邦政府事件・北西地区判例集第二巻五四四巻一八三頁)、損害賠償の請求主体並びに損害賠償の対象範囲及びその方法については不法行為制度の根幹にかかわるものであるといってよいところ、民法七〇九条、七一〇条及び七一一条の各規定の趣旨及び内容からすると、本件にみられるように、被害者が死にも比肩すべき重大な障害の残る傷害を受け、終生介護を要する状態となった場合にあっては、被害者だけでなくその父母に対しても固有の慰藉料請求権を認めているものと解されるから(最高裁判所昭和三一年(オ)第二一五号昭和三三年八月五日第三小法廷判決・民集第一二巻一二号一九〇一頁参照)、サウスダコタ州法及び判例の下で慰謝料請求権が認められないことを理由に原告X2及びX3の慰藉料請求権を否定することは、我が国の公序に反するものというべきである。

(二) 責任の減殺

前記四に記載したとおり、被告らの損害賠償責任が原告X1の受けた損害の七割を限度とすべきものであることからするならば、原告X2及び原告X3の慰謝料額も右の限度に減殺されるべきところ、その金額は一七五万〇〇〇〇円となることが計算上明らかである。

六  損害の填補、弁護士費用及び遅延損害金について

(一)  損害の填補

前記第二の一4記載のとおり、原告X1の受けた損害のうち、七七三万一六七〇円の限度で填補されているため、弁護士費用を除くと、一億一八七八万八六二八円が被告らにおいて損害賠償すべき金額である。

(二)  弁護士費用

原告らは、弁護士に依頼して本件訴訟を提起追行したものであることは当裁判所に顕著な事実であるところ、サウスダコタ州法及び判例上弁護士費用が不法行為による損害として肯定されているのか否かにつき証拠上明らかでないけれども、本件訴訟が我が国において提起追行されているものであり、被害者における損害賠償の対象範囲については不法行為制度の根幹にかかわる部分であって、我が国の公序に属するものであるといってよいことからすると、右の弁護士費用は本件事故による損害に当たると解するのが相当であるところ、原告らの請求額及び認容額並びに遅延損害金の起算点のほか、本件事案の性質内容、審理の経過、とりわけ、本件がアメリカ合衆国サウスダコタ州内で発生した交通事故における不法行為責任の有無及び損害賠償の範囲を明らかにする必要があるなど困難な事項を含むものであることからすると、弁護士費用は、原告X1につき六〇〇万〇〇〇〇円、原告X2及び原告X3につき各二〇万〇〇〇〇円の限度で、本件事故と相当因果関係にある損害であると認める。

(三)  遅延損害金

サウスダコタ州法及び判例上不法行為の日から民事法定利率年五分の割合による遅延損害金が不法行為による損害として肯定されているのか否かにつき証拠上明らかでないけれども、弁護士費用と同様に、遅延損害金の内容も不法行為制度の根幹にかかわる部分であって我が国の公序に属するものであるといってよいことからすると、右の遅延損害金の支払義務を肯定するのが相当であると解される。もっとも、原告らは、遅延損害金の起算点につき、平成五年一一月二七日であると主張するが、同日はアメリカにおける事故発生日であって、日本における事故発生日は同月二八日であるから、被告らは、同日から民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負うものと認める。

第四結論

よって、原告X1の請求は、被告らに対し、各自、損害賠償金一億二四七八万八六二八円及び不法行為の日である平成五年一一月二八日から民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるので、これを認容し、その余の部分につきいずれも理由がないので、これを棄却し、原告X2及び原告X3の請求は、被告らに対し、各自、各損害賠償金一九五万〇〇〇〇円及び不法行為の日である前同日から民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるので、これを認容し、その余の部分につきいずれも理由がないので、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六五条一項、六四条本文、六一条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡邉温 酒井良介 竹尾信道)

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